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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)1493号 判決 1990年7月20日

原告 F・O有限会社(被告株式会社I・Iに対する訴えについて)

右代表者仮代表取締役 町井洋一

右代表者取締役(共同代表) F・O・F子(被告E・F・Oに対する訴えについて)

右特別代理人 石井小夜子(両被告に対する訴えについて)

原告訴訟代理人弁護士 金住典子

同 榊原富士子

同 岡見節子

被告 株式会社I・I

右代表者代表取締役 清原慶三

右訴訟代理人弁護士 鎌田久仁夫

被告 E・F・O

右訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳

主文

一  被告E・F・Oは、原告に対し、一二九万一一三〇円及び内金一〇九万一一三〇円に対する昭和五七年七月三日から、内金二〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告E・F・Oに対するその余の請求及び被告株式会社I・Iに対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告E・F・Oとの間では、原告と同被告に生じた費用の一〇分の一を同被告の、その余を原告の負担とし、原告と被告株式会社I・Iとの間では、全部原告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告に対し、三一〇〇万円及び内金三〇〇〇万円に対する昭和四八年六月一一日から、内金一〇〇万円に対する昭和五七年七月三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  1について仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告会社の設立及び商号の周知性

原告(以下「原告会社」ともいう。)は、昭和四五年六月九日設立され、工作機械器具等の輸出入及び国内販売、上記に関連する代理業務並びにこれらに関連する業務を目的とする有限会社である。

ところで、原告会社は、設立以降、定款記載の輸出入業等については業務の開始が困難な状況にあったため、当初からこれらに関連する業務である翻訳業に主力をそそいでいたところ、当時の翻訳業に対する需要増加の傾向と相まって、順調に成長を遂げた。

そして、原告会社は、昭和四七年ころには、ソニー、アイワ、カシオ計算機、三菱商事、三菱製紙、日立製作所、電波通信社などの有名企業と取引があり、原告会社の「F・O有限会社」の商号は、原告会社の営業を表示するものとして、日本国内において取引者及び需要者の間に広く認識されていた。

2  被告らによる営業権の侵奪

(一) 原告会社は、取締役F子・F・O(以下「F子」という。)と取締役被告E・F・O(以下「被告E」という。)の夫婦二人(なお、両者は、昭和五三年三月一四日、離婚している。)で出発した会社である。すなわち、原告会社の社員は、右両名のみであり、それぞれ原告会社の出資総口数五〇口のうち二五口ずつを有している。また、両名とも、原告会社を共同して代表する取締役であった。

しかし、原告会社の設立の基盤は、人的にも物的にも、F子の力によるところが大きかった。設立当初においては、翻訳のために必要な事務機器等は、すべてF子が所有していたものであり、本店である西麻布の事務所もF子の所有する不動産であり、また、顧客層も、F子の知合いと取引することから始め、徐々に広げていったものである。

(二) 被告Eは、原告会社の経営が安定してきたのを見て、昭和四七年春ころから、F子に対し、原告会社のF子の持分を無償で譲渡するよう迫り、これに応じないF子に対し、殴る蹴るの暴行を加えた。

ところで、F子に対してその持分を譲渡させることが無理であるとみるや、被告Eは、同年一一月、F子に無断で、原告会社の書類及び事務機器のすべてを運び出し、目黒区《番地省略》に新事務所を構えた。また、それまでは、原告会社の銀行口座は、F子と被告Eの両名が署名しなければ引き出せないようにしてあったのに、被告Eは、単独で金員を引き出せるようにするため、F子に無断で、被告Eのみを代表者とする口座を開設した。そして、被告Eは、原告会社の顧客に対しては、原告会社に無断で事務所及び銀行口座を設けたものであることを秘して、原告会社の事務所及び口座を移転したかのように通知し、被告Eが開設した口座に入金させるようにした。これを知って驚いたF子が、顧客から代金を回収しようとするや、被告Eは、F子に対し、客と連絡をとったら殺すと脅迫した。F子は、これまでに被告Eから度重なる暴行を受けていたこともあり、顧客に真実を公表することもできなかった。

更に、被告Eは、原告会社に注文する取引先に対し、F子の仕事能力について中傷し、原告会社の仕事を妨害し、取引先を奪っていった。

(三) その後、被告Eは、昭和四八年六月一一日、前記目黒区《番地省略》を本店所在地とする、O・P・R株式会社を設立し、代表取締役に就任し、同会社に、原告会社から奪った資産、顧客等をすべて引き継がせた。

O・P・R株式会社は、企業の海外宣伝、見本市サービス、マーケット・リサーチ、上記に関連する一切の業務を目的としていたが、実際には、日本語ドイツ語等の間の翻訳をその主たる業務としていた。同社は、昭和五〇年九月一〇日、O株式会社と商号を変更し、更に、昭和五七年一〇月一〇日、現在の株式会社I・Iに商号を変更している(以下、商号にかかわらず「被告会社」という。)。

被告会社の設立に際して、被告E及び被告会社は、顧客に対しては、新会社を設立したものであることを秘し、原告会社が、「F・O有限会社」から「O・P・R株式会社」へ組織変更及び商号変更をしたものであると偽って通知をした。このような方法をとったため、顧客等は、原告会社と被告会社が別会社であるとは全く認識せず、取引を継続していた。

(四) 被告Eは、当初、被告会社の代表取締役となり、昭和四八年二月五日には被告会社の株式を一〇〇パーセント所有するに至ったが、F子からの差押えを免れるため、昭和四九年三月一日には株式を全部仮装譲渡し、昭和五〇年九月一〇日には、同様にF子の差押えを免れるため、代表取締役を辞任し、従業員という形で実質上の権限をふるい、昭和五二年一二月三〇日には被告会社を退社した形をとり、昭和五三年二月一日にドイツに帰国した。

(五) 以上の原告会社の資産の無断持出し、顧客への虚偽の通知、原告会社の代表者であるF子への暴行、脅迫、被告会社の設立、被告会社による原告会社の資産顧客等の違法な侵奪、外形上、被告Eと被告会社のつながりを断ち切る等の一連の行為により、被告E及び被告会社は、共同して原告会社の営業権を侵奪したものであって、右は、不法行為に該当する。なお、右営業権の侵奪は、被告会社の設立、営業開始によってほぼ完成し、昭和五二年一二月三〇日、被告Eが被告会社を退職し、外形上被告Eと被告会社の関係が断たれることによって完全に完成したものというべきである。

3  被告会社の類似商号の使用

前項記載のとおり、被告会社は、原告会社と同様の日本語ドイツ語等の間の翻訳を主たる業務とする会社であるところ、設立以来、原告会社の周知商号である「F・O有限会社」と類似する商号を使用しており、前項記載の被告会社の行為は、不正競争防止法一条の二第一項、一条一項二号にも該当するものであるが、この類似商号の使用は、昭和五七年一〇月一〇日、現在の「株式会社I・I」に商号を変更するまで継続したものである。

4  被告Eの競業避止義務違反

また、2項で述べた被告Eの行為は、有限会社法二九条所定の取締役の競業避止義務にも違反するものであって、被告Eは、原告会社に対し、債務不履行責任を負うものである。

5  損害

(一) 原告会社が被告らの不法行為ないし債務不履行により被った損害の額は、次のとおりである。

原告会社は、被告らにより営業権を侵奪されたものであるところ、営業権の譲渡の場合、営業権の価額は、通常、譲渡の年の純利益の五年分をもって総価額とされており、また、成長が予見されるときは、その成長率も加算される。原告会社は、昭和四六、七年当時、日本語―英語―ドイツ語の翻訳を必要とする顧客のほとんどを掌握しており、年約五〇パーセントの売上の上昇が予見されていたから、本件においては、不法行為の成立時である昭和四八年六月当時の被告会社の純利益を基礎に、それから昭和五二年までの五年間の毎年度の純利益を合計したものが原告会社の損害となる。

昭和四八年については、被告会社の純利益を証する損益計算書が半期分しか存在しないので、被告会社の半期の売上高一七一三万円に原告会社の昭和四七年度の売上の一二〇〇万円の半分を加えた二三一三万円が、昭和四八年度の総売上となり、そして、昭和四九年度は四四六九万円、同五〇年度は七八一九万円、同五一年度は一億一二七五万円、同五二年度は一億八一〇三万円である。以上の五年分の売上高の合計は四億三九七九万円であり、被告会社の利益率は六八パーセントであるから、被告会社の純利益は二億九九〇五万円となり、原告会社は、右同額の損害を被ったことになる。原告会社は、本訴において、右損害のうち三〇〇〇万円の請求をするものである。

(二) 原告会社は、本訴提起に当たり、弁護士金住典子及び同榊原富士子に対し、弁護士費用(手数料、報酬ともで)として、事件終了時に一〇〇万円を支払う旨約したので、これも、前記被告らの行為によって生じた損害である。

6  結論

原告会社は、被告会社に対しては、主位的に民法七〇九条の不法行為責任を、予備的に不正競争防止法一条の二第一項、一条一項二号の責任を、被告Eに対しては、主位的に有限会社法二九条一項の取締役の競業避止義務違反による債務不履行責任を、予備的に民法七〇九条の不法行為責任を追求するものであり、以上の被告らの不法行為は、民法七一九条一項の共同不法行為の関係に立つものである。

よって、原告会社は、被告らに対し、各自、原告会社に対し三一〇〇万円及び内金三〇〇〇万円に対する不法行為の後の日である昭和四八年六月一一日から、内金一〇〇万円に対する本訴状送達の日の翌日である昭和五七年七月三日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

二  請求の原因に対する被告らの答弁

1  被告Eの答弁

(一) 請求の原因1のうち、原告会社の設立日時及び目的並びに原告会社が翻訳業をしていたこと、原告会社がその主張する企業から翻訳の依頼を受けたことがあったことは認め、その余の事実は知らない。

(二) 同2(一)のうち、前段の事実は認めるが、後段の事実は否認する。

同2(二)のうち、被告Eが、原告会社主張のころ、原告会社の事務所を移転し、事務機器等を運んだこと、銀行口座を開設したことは認めるが、その余の事実は否認する。右事務所の移転等について、F子は、同意していたものである。

同2(三)のうち、被告会社が原告会社主張の日に主張の営業を目的として設立されたこと、被告Eが代表取締役に就任したこと、被告会社が主張のとおり商号を変更したことは認め、被告会社の営業が翻訳をその主たる業務としていたことは知らない。その余の事実は否認する。

同2(四)は認める。ただし、株式譲渡及び代表取締役の辞任等が差押えを免れるためであることは否認する。

同2(五)は争う。F子は、昭和四七年一二月二日以降、被告Eの業務を手伝うことを一方的に拒否し、原告会社名義の口座に振り込まれるべき金銭を着服した。このように、F子が原告会社の取締役としての職責を放棄したため、原告会社の経営は不可能となり、全くの形骸と化したのである。したがって、被告Eによる被告会社の設立が、原告会社の営業権の侵害となることなどありえなかったものである。

(三) 同3、4は争う。

(四) 同5(一)は否認し、(二)は知らない。

2  被告会社の答弁

(一) 請求の原因1のうち、原告会社の設立日時及び目的は認め、翻訳業が原告会社の目的に関連する事業であること及び原告会社の商号が日本国内において広く認識されていたことは否認し、その余の事実は知らない。

原告会社は、昭和四五年六月設立され、同四七年一一月の時点においても、設立時同様、事業従事者は夫婦だけという売上高も少ない誠に微細な事業体にすぎなかったものであり、原告会社の商号が、翻訳を営業とする原告会社を表示するものとして、日本国内の取引者及び需要者の間に広く認識されていたことは全くない。

(二) 同2(一)のうち、前段の事実は認めるが、後段の事実は否認する。

同2(二)は知らない。

同2(三)のうち、被告会社が原告会社主張の日に主張の営業を目的として設立されたこと、被告Eが代表取締役に就任したこと、被告会社が主張のとおり商号を変更したこと、被告会社が営業目的とする「企業の海外宣伝」の用に供するため翻訳、デザイン、印刷を業としていることは認め、その余の事実は否認する。

同2(四)のうち、被告Eのした株式譲渡が仮装であることは否認し、株式譲渡及び代表取締役の辞任等が差押えを免れるためであることは知らない。その余の事実は認める。

同2(五)は争う。原告会社は、被告Eの主張(一)のとおり、実体は被告Eの個人企業であり、会社としての実体を備えていなかったものであるから、夫婦間に亀裂を生じ、被告EがF子との経営を拒否するに至れば、もともと被告Eの個人企業故、同人がこれと同種の営業を独自にあるいは会社組織で行うことは全く自由であって、不法行為が成立することはない。

仮に原告会社が有限会社としての実体を備えていたとしても、右会社の社員はE夫妻のみであり、しかも共同代表であり、実際は被告Eの翻訳業を事業と中心として経営されていた家内企業ともいうべきものであったから、昭和四七年九月にF子が離婚訴訟を提起し、同年一一月に被告Eが別居するに至った時点において共同経営は不可能となり、原告会社は経営不能の状態になったものといわなければならない。被告会社は、その翌年の六月一一日に設立されたものであるから、既に経営不能となり顧客と離れ実体のなくなっている原告会社は競業の対象とすらなりえず、まして、乗っ取ることなどありえないことである。

(三) 同3については、被告会社の設立当初の商号が原告会社の商号に類似していることは否認する。

(四) 同5は否認する。

原告会社は、昭和四七年一一月以降、全く営業をしていないものであるから、営業損害の発生する余地はない。

また、原告会社は、社員である被告E及びF子の関係が破綻し、社員間の合意不能により経営不能に陥ったものであって、被告会社の設立あるいは営業に起因して営業不能となったものではないから、被告会社の設立あるいは営業と原告会社の営業不能との間には因果関係がない。

三  被告らの主張

1  被告Eの主張

(一) 本件においては、以下のとおり、有限会社法二九条は適用されない。

(1) 原告会社は、有限会社の登記はしていたものの、実体は被告Eの個人企業であり、会社としての実体を備えていなかった。すなわち、原告会社においては、出資の払込は現実にはされておらず、社員総数や取締役会が開催されたことはなく、役員に対する報酬の支払いもなかった。会社の所在地は、F子の家屋であって会社としての事務所を有しておらず、従業員もいなかった。更に、原告会社の会計とF子及び被告Eの家計との区別も、明確にされていなかった。

(2) 原告会社の設立の動機は、被告Eが従前行っていた翻訳の仕事を続け拡大していくためには個人名より会社名の方がよいと思ったからであり、また、経理上もそのほうが有利と考えられたからであって、設立の主観的な動機においても、法人としての実体を有すべく設立されたものではない。

(3) 原告会社の名義でされた営業の大部分は翻訳であるが、これも、被告Eが行っていたのであって、かかる営業は、被告Eが原告会社設立以前から行っていた翻訳業務の延長である。被告Eは、顧客の開拓、翻訳、下請けの手配など業務の大半を処理しており、F子は、被告Eの補助的役割をしていたにすぎない。したがって、顧客の信用は、被告Eにあり、原告会社にあったわけではなく、顧客は、原告会社を被告Eと同視していたのである。

(4) 以上のように、原告会社は、組織上も運営上も、また、営業の実態においても、実質は被告Eの個人事業であったのであるから、会社と取締役の委任関係及びそれに基づく取締役の会社に対する責任を前提とする有限会社法二九条の規定は、本件のような事実関係の下では適用の余地がないと解すべきである。

(二) 被告Eは、事務所移転等については、原告会社のもう一人の社員であるF子の同意を得ている。すなわち、被告Eは、原告会社の事務所をF子の居宅から移転し、備品等を新しい事務所に移し、新しい事務所で原告会社の名で従前どおりの営業を継続することについてF子の同意を得ている。したがって、仮に原告会社が有限会社としての実体を備えていたとしても、被告Eの右行為は、原告会社の社員全員の同意を得て行われたものであるから、有限会社法二九条に違反するとの原告会社の主張は、理由がない。

(三) 不法行為に基づく損害賠償請求については、消滅時効が完成している。すなわち、原告会社は、被告Eの行為が民法七〇九条に該当する旨主張するところ、仮に右主張が認められるとしても、原告会社は、不法行為の終期は昭和五二年一二月であると主張しているのである。ところで、原告会社の法定代理人であるF子は、昭和五二年一二月当時、被告Eが被告会社を設立し、被告会社が翻訳に従事していたことを知っており、また、原告会社が翻訳を断念せざるを得ない状態に至っていたことを知っていたのであるから、F子は、昭和五二年一二月には、原告会社の損害及び加害者を知っていたことは明らかである。したがって、昭和五二年一二月から本件訴えの提起の時である昭和五七年二月一〇日までの間に、既に三年の時効期間は経過しているから、仮に原告会社の主張が事実であるとしても、原告会社の請求権は、時効により消滅したものである。被告Eは、仮定的に右消滅時効を援用する。

2  被告会社の主張

(一) 前記のとおり、原告会社は、実体は被告Eの個人企業というべき存在であったから、被告Eが関与して式立した被告会社は、原告会社の承諾の下に設立されたものというべきである。したがって、被告会社の営業が不正競争防止法に違反するということはない。

(二) 不正競争防止法の保護の対象は、あくまで営業活動を行う企業であって、企業としての実体が存在せず、営業活動を行うことが全く不可能な、形骸化した会社まで保護の対象とするものではない。原告会社は、前記のとおり、全く営業不可能な形骸化した会社なのであるから、不正競争防止法を根拠として、被告会社に対し、損害賠償を求めることは許されないというべきである。

(三) 被告会社は、原告会社との不正競争を目的として設立されたものではないから善意であって、被告会社の行為に違法性はない。すなわち、前記のとおり、原告会社においては、社員である被告EとF子の夫婦関係の破綻は会社の経営不能を来し、事実上、解散したものとみなさざるをえない状態であったから、その一方当事者が生活の必要上、その氏を商号の一部として会社を設立し、従前の会社と同種の事業を営むことは、誠に止むをえざるものというべきであり、しかも、外国人として翻訳業以外に生活の方途を見出し得ない場合においてはなおさらであり、これを目して不正競業を目的とした違法行為とはいえず、このことは、不正競争防止法二条一項三号の規定の法意に照らしても明らかなところである。

(四) 不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害及び加害者を知ったときから三年で時効により消滅するから、仮に原告会社の主張のとおりであるとしても、不法行為及び不正競争防止法違反に基づく被告会社に対する請求については、本訴提起の三年以前の請求に係るものは、すべて時効により消滅している。被告会社は、右時効を援用する。

(五) 原告会社は、被告会社に対する請求権を放棄したものである。すなわち、F子は、昭和四九年一一月、債務者を被告E、第三債務者を被告会社として、報酬等債権の差押えをし、昭和五二年五月、右差押命令に基づく取立訴訟を提起したが、昭和五三年七月一七日、和解が成立し、被告会社はF子に対し四二〇万円を支払い、F子は被告会社に対して和解条項以外に何らの債権債務の存在しないことを確認した。右和解成立当時、既に、原告会社は営業しておらず、F子自身は、被告Eと被告会社が共謀して原告会社を乗っ取り、その営業を不能ならしめたと考えていたことは明らかであり、しかも、本件事案では、被告Eは原告会社から除かれ、原告会社イコールF子というべきであるから、右和解は、実質上、原告会社も参加してしたものとみなすべきである。換言すれば、原告会社は、夫婦であったF子と被告Eの二人構成の会社であり、この二人が反目し、その一人が相手方の経営する同種営業の会社と和解するというのであって、少なくとも被告会社との紛争は一切取り止めるというのであるから、その和解をするF子自身、原告会社の法定代理人としても、これを容認したものとみなすべきものである。したがって、仮に原告会社に被告会社に対する請求権が存在していたとしても、右請求権は、右和解により放棄したものである。

(六) 原告会社の本訴請求は、権利の濫用である。すなわち、被告Eは、昭和五二年一二月に被告会社を退職し、以後、両者は、全く関係のないものとなっている。F子は、前項記載の取立訴訟の過程でこの事実を知ったものである。本件訴訟は、F子単独の意思に基づき提起されたものであり、その実質は、形骸にすぎない原告会社を利用して、その発生原因から一〇年近く経過し、被告会社が発生原因とは全く無関係な存在となってしまっていることを熟知したうえで、あえてEに対する怨念を果たす手段として被告会社を巻き込み、これを被告としたものであって、到底正当な権利行使とはいえず、権利濫用として排斥を免れない。

四  被告らの主張に対する原告の反論

1  被告Eの主張に対して

(一) 被告Eの主張(一)について 原告会社の設立、営業の基礎作りは、ほとんどF子がしたものであり、顧客が安定し、経営が軌道にのるや、被告Eが原告会社を乗っ取ろうとしたものであって、原告会社が被告Eの個人企業であったことはない。

(二) 同(二)について 被告Eによる原告会社の事務所の移転、備品等の運び出しは、F子に無断でされたものであり、F子が被告Eの行為に同意していたことはない。

(三) 同(三)について 本件における消滅時効の起算日は、昭和五六年三月一四日である。すなわち、本件不法行為は、営業権侵奪という特殊かつ極めて悪質なものであるから、消滅時効の起算日は、被害者又はその法定代理人が加害行為の違法性を知ったときと解すべきであって、本件においては、原告会社の取締役であるF子が、弁護士金住典子に本件を相談して、その訴えの可能性を教えられた昭和五六年三月一三日の翌日である同月一四日である。本訴提起は、昭和五七年二月一〇日であるから、本件不法行為に基づく損害賠償請求権について消滅時効は完成していない。

2  被告会社の主張に対して

(一) 被告会社の主張(一)ないし(三)は事実に反する。

(二) 同(四)について 前記のとおり、本件不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算日は、昭和五六年三月一四日である。また、仮に、被告Eとの関係では、原告会社が本件不法行為時に損害及び加害者を知っていたものとすべきであるとしても、被告会社との関係では、不法行為時には知らなかったのである。すなわち、原告会社の代表者であるF子は、被告Eに対して会社乗っ取りの損害賠償請求のできることは知っており、長年責任追及をしたいと考えていたが、ようやく、昭和五六年三月一三日、弁護士金住典子に本件を相談し、その際、同弁護士から、被告会社に対しても責任追及をしうることを初めて知らされたのであって、被告会社との関係では、その翌日である同月一四日から消滅時効は進行すると解すべきである。本訴提起は、昭和五七年二月一〇日であるから、本件不法行為に基づく損害賠償請求権について消滅時効は完成していない。

(三) 同(五)及び(六)は事実に反する。

五  原告の主張

被告らの消滅時効の援用は、以下に述べるとおり、信義誠実の原則に反し、権利濫用であるから、無効である。

1  被告Eについて

(一) 被告Eは、本訴提起に至るまで、原告会社の共同経営者であるF子と、離婚、婚姻費用分担及び養育費用等について争訟を続け、自分の妻であるF子とその子を徹底的に兵糧攻めにし、その責任を回避するための策を弄してきた。すなわち、被告Eは、家裁で決定された婚姻費用分担金を支払わず、F子が昭和五〇年にその取締役報酬を差し押さえると、同年九月一〇日に被告会社の代表取締役を辞任し、右請求を妨害する方策をとった。また、被告Eは、F子との離婚訴訟について敗訴を予測し、執行を免れるため、判決が言い渡される直前である昭和五二年一二月三〇日に会社を退職し、翌昭和五三年二月一日には西ドイツに帰国した。被告Eは、同年二月二四日、離婚判決を受け、慰謝料として二〇〇万円の支払を命じられたが、右の理由により、その執行は不可能であった。更に、被告Eが子供のMの養育費を払わないため、F子は、ベルリンの家庭裁判所に、子供のMの養育費支払いの申立てをしたところ、昭和五四年九月から毎月二五〇マルク(日本円で約一万九〇〇〇円)を支払えとの命令が出た。また、F子は、離婚判決による離婚をした後、ドイツ法に基づき、離婚後の妻の扶養料請求をベルリンの家庭裁判所に申し立てたところ、昭和五八年に、被告Eとの間に月額一三万円を支払う旨の和解が成立したが、被告Eは、いまだその支払いをしない。

この間、F子は、女手ひとつでMを大学にあげるべく必死で生活のために闘い続けた。そして、F子は、昭和五〇年ころ、被告Eの会社の乗っ取りの責任を追及したいと離婚事件を依頼した弁護士に相談したが、同弁護士は、これまでの被告Eのやり口のひどさから、新たな訴訟を提起したら、一層嫌がらせをされ、生活に困ることになるからと制止した。

また、F子は、昭和五三年三月一四日の離婚当時、被告Eから、被告会社の営業の邪魔をすると殺してやると脅かされていたので、これまでの暴力のひどさを知っているF子は、恐ろしさから、とにかく息子が成人するまでは我慢しようと思っていた。

以上のとおり、被告Eは、原告会社の残る唯一の取締役であるF子が会社の利益を守るために、被告Eの原告会社乗っ取りの不法行為の賠償責任追及の法的手続きに着手することを、畏怖させることにより妨害してきたものである。

したがって、かかる被告Eが、本訴において、消滅時効の援用を主張することは、信義誠実の原則に違反し、権利濫用として許されないものである。

(二) また、被告Eの本件営業権の侵奪行為は、極めて悪質であり、侵奪した財産価値は莫大であって、侵害行為の違法性は大きく、また、被告Eは、このようにして侵奪した利益を守るため、被告会社に対する別件訴訟と本件訴訟とで全く相反する主張をし、裁判所をたぶらかそうとしており、このような被告Eの悪質な態度をも考慮すると、公平の原則に照らし、同被告の時効の援用は、時効制度本来の目的から逸脱するものとして認められないと解すべきである。

2  被告会社について

被告会社の代表取締役は、当初、被告Eであり、その後、訴外清原慶三に交代したが、これは、被告Eが、F子の追及を恐れて訴外川井喜美子と謀り、形式上、代表取締役を訴外清原にしたものにすぎないから、被告Eによる前記権利濫用の行為は、訴外川井との共同濫用行為として被告会社に引き継がれているのである。この点について敷えんすると、訴外川井は、被告Eと共謀し、F子の追及を免れるため、被告Eを被告会社から退社させ、外形上、被告Eと被告会社のつながりを断ち切ることとし、訴外川井が被告会社を実質上とりしきる体制をとった。その後、訴外川井は、昭和五六年二月二五日には、被告Eの被告会社から追出しを謀るために取締役に就任し、以来、被告会社の実権を掌握しているのであるから、被告会社の権利濫用に係る帰責事由は継続しているものである。したがって、被告会社の消滅時効の援用は、権利濫用として無効である。

六  原告の主張に対する被告らの答弁

1  被告E

原告会社は、自らの主張において、F子が被告Eや被告会社に対して多くの訴えを提起してきたことを認めているのであって、畏怖により妨害されたという主張は、右の原告会社の主張自体に照らして失当であり、時効の援用が信義誠実の原則に反して権利濫用であるとの主張は、理由がない。

2  被告会社

否認する。

第三証拠関係《省略》

理由

一  《証拠省略》を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

1  原告会社の取締役であるF子は、ドイツ人の個人教授につくなどしてドイツ語を学び、駐日ドイツ大使館の通訳官として約二年くらい勤務した後、会社を設立して輸入業務等を行ったが、その後、西ドイツでエアフランス航空会社の営業部員として勤務した。F子は、エアフランス勤務当時は、主として、日本企業のドイツにある支店を回って航空客を誘致するための営業活動に従事し、また、同時に、通訳、翻訳等の仕事もしていた。そして、F子は、昭和三四年当時、エアフランス航空会社に勤務する傍ら大学で学んでいたところ、大学生であった被告Eと知り合い、昭和三六年一〇月一一日、西ドイツ・フランクフルト・アム・マインにおいて婚姻し、昭和三七年四月一〇日、Mをもうけた。

被告Eは、F子の協力もあって、昭和三九年一二月、フランクフルト大学を卒業し、昭和四〇年一月、バイエル染料株式会社に就職し、昭和四三年四月、同社の日本支店勤務となって来日し、東京に住むようになったが、間もなく解雇されて、同年一一月ころドイツに帰国し、ドイツ商工会議所に再就職し、昭和四四年八月、駐日ドイツ商工会議所勤務となり、再び来日したが、昭和四五年二月、同会議所から解雇された。

2  被告Eは、駐日ドイツ商工会議所を解雇された後、F子に会社を設立することを相談し、両名で、昭和四五年六月九日、原告会社を設立し、その登記をした。会社の設立手続は、F子が行い、被告EとF子の二名が出資総口数五〇口のうち二五口ずつを有し、いずれも代表権を有する取締役となり、共同代表の定めをおいた。原告会社の目的は、工作機械器具、日用雑貨品、食料品、化学製品等の輸出入及び国内販売並びにこれに関する代理業務、並びにこれらに関連する業務であったが、貿易の商売に参入することは資本もなく困難であった。輸出入の代理業務に関連する業務としての翻訳、通訳の仕事は、資本がなくとも始められ、F子及び被告Eとも、その経験があったため、原告会社の実際の業務としては、翻訳、通訳業を行うこととした。

設立当初の原告会社の事務所は、F子の自宅に置き、必要な事務備品等もF子が会社を経営していたころのものを使用していた。顧客の開拓は、F子及び被告Eの双方で行ったが、F子は、ドイツでエアフランスの仕事あるいは通訳の仕事を通して知り合った人のところを回って仕事をもらい、日立製作所、三菱商事、新日鉄等を顧客として開拓した。また、F子の伯父が相談役をしていた関係で、三井物産からも仕事をもらった。

原告会社の業務については、被告Eは、英語とドイツ語間の翻訳、通訳を、F子は、日本語とドイツ語、英語間の翻訳、通訳を行った。また、被告Eは、主として営業を担当し、顧客のところを訪問するなどし、F子は、事務所にいて顧客との電話による連絡、完成した翻訳の顧客への発送、決算書の作成、下請けの翻訳者を探し連絡することなどを担当し、両者が協力して、原告会社の業務を遂行していった。

原告会社は、昭和四七年ころには、ソニー、アイワ、カシオ計算機、三菱商事、三菱製紙、日立製作所、電波通信社などの有名企業との取引を持つようになり、昭和四七年度の決算では、売上高一〇九六万八六七五円、営業利益一六三万三七三二円をあげるまでになった。

3  F子は、商才にたけ、家庭的な性格とはいえないが、被告Eとの婚姻生活中その家事処理に物段非難すべき点はなかったのに対し、被告Eは、短気粗暴な性格で、婚姻後間もなく、何かと気に入らないことがあるとF子に対し殴る蹴るの暴行を加え、時として、右暴行は子供のMにまで及ぶことがあった。右暴行のうち主なものは、次のとおりである。

(一)  昭和三七年二月ころ、F子が妊娠七か月のとき、頭部を強打され、数時間けいれんを起こし、また、同年夏ころ、手拳で強打、足蹴りされ、右前歯を折損した。

(二)  昭和三八年から三九年にかけ、就寝中頭部を強打され、数回失神した。

(三)  昭和四三年八月二〇日、後頭部を強打され、頭蓋骨陥没、脳震とうを起こし、約三か月静養したが、後遺症として一年間くらい頭痛、視力減退が続いた。

(四)  昭和四四年七月、左足にかみつかれ、全治約四週間の傷害を負った。

(五)  昭和四六年四月、両腕を後方にねじ上げられ、後遺症として右腕のしびれが残り、痛みのため機能が不完全である。また、同年五月、頭部を強打され、右側鼓膜破裂の傷害を負い、更に、同年七月一四日、左顔面を強打され、左臼歯を折損した。

F子は、Mのことなどを考え、被告Eの暴力に耐えていたが、被告Eが無断外泊を繰り返すことなどから日本の女性と関係を持っているものと思い、また、同被告の暴力にも耐えきれなくなって、昭和四七年九月二一日、離婚請求の訴えを提起した。

4  被告Eは、昭和四七年の春ころから、F子に対し、原告会社の取締役を辞任し、従業員になるよう要請し、F子がこれを拒絶すると、当時、原告会社の銀行口座は、引出しのためには被告EとF子の両名の署名が必要であったところ、金額欄未記入の払戻用紙にF子の署名を要求し、金額を自分で記入して自分で払戻を受けるようになり、F子が署名を拒むと殴る蹴るの暴行を加えるようになった。

被告Eは、F子から離婚請求の訴えを提起された直後ころ、F子と別居し、同年一一月二二日には、F子に無断で、F子の居宅から、原告会社の業務に使用していた事務機器、家具、電話、書類、辞書等を運び出し、目黒区《番地省略》甲野ビルに事務所を構え、同所において翻訳事業を継続した。また、被告Eは、従前の原告会社の銀行口座は、引出しにはF子と被告Eの両者の署名が必要であったため、被告Eのみを代表者とする銀行口座を新たに開設し、被告E単独で引き出せるようにしたうえ、従前の原告会社の顧客に対し、原告会社の事務所及び銀行口座を移転した旨の通知をし、代金は新たに開設した口座に入金させるようにした。

これに対して、F子は、得意先に赴き、直接売掛金を回収したり、昭和四八年二月には、被告Eが開設した富士銀行祐天寺支店の口座の払戻停止措置をとるに至った。そこで、被告Eは、昭和四八年二月限りで原告会社の営業を停止し、翌三月からは、原告会社の社員として雇用していた訴外川井喜美子の協力を得て、被告E個人としての翻訳業を営むようになったが、会社の備品、顧客等は、原告会社時代のものをそのまま引き継いで営業していた。その後、被告Eは、同年六月一一日には、被告会社を設立してその代表取締役に就任したが、同会社の業務は、被告E個人の営業をそのまま引き継いだものである。被告会社の発起人には、被告Eの得意先及び翻訳者に依頼してなってもらったが、会社設立後、被告Eは、これらの設立当初の株主から株式の譲渡を受けて、昭和四八年一二月五日、被告会社の株式を一〇〇パーセント所有するようになった。

5  被告会社の業務は、順調に推移し、昭和四八年度(設立から同年末まで)においては、売上高一七一三万一〇一〇円、営業利益一二万九二〇円、昭和四九年度は、売上高四四六九万三三八〇円、営業利益二四万六六五五円となった。しかし、被告Eは、昭和四九年一月、東京家庭裁判所からF子に対し扶養料を支払えとの審判を受けたため、同女から自己が所有する被告会社の株式の差押えを受けることをおそれ、また、取引先を安定株主として確保する目的もあって、同年三月一日、自己の所有する被告会社の株式をすべて会社の得意先四名に譲渡した。

昭和五〇年に入って、被告会社の仕事量は、更に増加したが、業績が向上するに伴い、受取手形による決済が増加したため、資金繰りが窮屈になり、金融機関からの融資が必要となった。しかし、被告Eは、資金繰りは自分の仕事でないとして取り合わず、また、銀行からは代表取締役が外国人であるとの理由で、割引枠の承認及び融資を断られ、黒字倒産のおそれも生じた。そこで、被告会社では、自らも会社を経営し、外国人とのビジネスに豊富な経験を有し、金融機関の信用もある訴外清原慶三に代表取締役に就任してもらうこととし、被告Eも納得して、昭和五〇年九月一〇日、被告Eが代表取締役及び取締役を辞任し、訴外清原を代表取締役に選任した。また、同日、あわせて被告会社の商号をO株式会社と変更することとした。社名の変更と代表取締役の交代は、同年一一月、訴外清原と被告E連名の文書で取引先に通知された。これにより、被告Eは、営業担当の従業員となり、訴外川井が訴外清原の下で被告会社の内部を統括することとなった。そして、同年暮れには、訴外清原の連帯保証により、金融機関から融資を受けることができ、また、同時に手形の割引枠も認められたため、被告会社は、黒字倒産のおそれを脱することができた。

なお、昭和五〇年度の被告会社の売上高は七八一九万一七〇二円、営業利益は一〇四万一九一九円であったが、代表取締役の交代後、被告会社は、急成長を続け、昭和五一年度は、売上高一億一二七五万三四六六円、営業利益一一四四万七八六八円、昭和五二年度は、売上高一億八一〇三万七〇〇一円、営業利益一八四〇万七八五四円となった。

6  昭和五一年一一月末、F子からの被告Eの役員報酬に対する差押取立命令が被告会社に送達され、昭和五二年四月末には、被告会社の取引銀行三社に対する預金債権がF子により仮差押えされ、従業員に対する給料や下請けに対する支払いが不可能となったため、被告会社は、大混乱に陥った。右仮差押命令により、昭和四九年一〇月には、既に被告Eの報酬に対して差押取立命令が発せられていたが、これを被告Eが隠匿していたことが判明した。そして、昭和五二年五月末には、F子から被告会社に対して取立訴訟が提起され、被告会社は、応訴を余儀なくされた。このように、被告E個人の紛争が被告会社の経営に悪影響を及ぼし、また、被告会社を統括する立場の訴外川井と営業担当の従業員に降格された後もオーナー気取りで勝手な振舞いをする被告Eとが対立することが多くなったことなどから、訴外川井は、被告Eが退社しないのであれば自分が退社するとの意思を代表取締役の訴外清原に表明し、訴外川井と被告Eとで長時間話し合った結果、被告Eは、被告会社を退社し、ドイツに帰国して再出発することを決意し、昭和五二年一二月三〇日、被告会社を退職し、翌昭和五三年二月一日、ドイツに帰国した。

その後、被告Eは、昭和六〇年一月一一日、被告会社らを相手に、自己が被告会社の株主であることの確認を求めて、当庁に訴訟を提起し(以下「別件訴訟」という。)、同訴訟において、昭和四九年一月の株式譲渡及び昭和五〇年九月の代表取締役辞任はF子からの執行を免れるためにした仮装のものであり、被告Eが株主であり、実質的に代表取締役であったと主張した。

7  F子と被告E及び被告会社との間には、本件訴訟に至るまで、離婚訴訟を初め、多くの法律上の紛争が存在したが、その概要は、以下のとおりである。

F子は、前記のとおり、昭和四七年九月二一日、被告Eに対し、離婚訴訟を提起した。

また、被告Eが同年一二月以来生活費を支払わないために、F子は、被告Eを相手に、昭和四八年五月二二日、東京家庭裁判所に対し、婚姻費用分担の審判を求め、翌昭和四九年一月、「被告EはF子に対し、扶養料として、昭和四八年一月から昭和四九年一月分までの分合計一〇四万円を直ちに、昭和四九年二月分以降被告EとF子の婚姻解消又は別居解消に至るまで毎月一三万円宛を前月の末日までに、それぞれF子住所へ送金して支払え。」との審判がされた。

しかし、被告Eが支払ったのは、昭和四九年一月からMあてに一か月六万円ずつだけであった。そのため、F子は、右審判に基づき、昭和四九年一〇月一六日、被告Eの被告会社に対する役員報酬又は賞与、給与及び退職金債権に対する債権差押え並びに取立命令を得た。当時、被告Eは、被告会社の代表取締役であったが、右差押えの事実を会社にも知らせず、したがって、被告会社は、右の支払いに応じなかった。そこで、F子は、更に、昭和五一年一一月二四日、被告Eを債務者、被告会社を第三債務者とする同様の債権差押え並びに取立命令を得た。

しかるに、被告会社は、支払いに応じなかったため、F子は、昭和五二年五月二六日、被告会社に対し、前記各債権差押取立命令に基づき取立訴訟を提起した。右訴訟は、昭和五三年七月一七日、訴訟上の和解が成立し、被告会社がF子に四二〇万円を支払うことで終了した。

前記離婚訴訟の判決は、昭和五三年二月二四日言い渡され、F子の離婚請求を認容し、被告Eに対し慰謝料二〇〇万円の支払いを命ずる内容であったが、被告Eは、右言渡の直前である同年二月一日、ドイツへ帰国してしまい、右支払いをしようとしないため、F子は、右の支払いを受けられないままである。

その後、F子は、ベルリンの家庭裁判所にMの養育費の支払いを求めて申立てをし、昭和五四年九月から毎月二五〇マルク(日本円で約一万九〇〇〇円)を支払えとの命令を得た。

更に、その後、F子は、ドイツ法に基づき、ベルリンの家庭裁判所に離婚後の扶養料の請求をし、昭和五八年七月ころ、月額一三万円を支払うという和解が成立したが、実際には、ほとんどその支払いを得られなかった。

二  原告の被告会社及び被告Eに対する不法行為に基づく損害賠償請求について

1  原告会社は、被告らの不法行為は、被告会社が設立された昭和四八年六月一一日にほぼ完成し、被告Eが被告会社を退社した昭和五二年一二月三〇日に完全に完成したとして、昭和四八年から昭和五二年までの被告会社の得た利益額と同額の損害を被った旨主張している。これに対して、被告らは、原告会社は不法行為時に損害及び加害者を知ったものであるところ、本訴提起は、右不法行為の時から三年以上経過しているから、不法行為に基づく損害賠償請求権については消滅時効が完成しているとして、右消滅時効を援用している。そこで、審案するに、原告会社は、時効の起算点は、原告会社の取締役であるF子が、弁護士金住典子に本件を相談して、その訴えの可能性を教えられた昭和五六年三月一三日の翌日である同月一四日とすべきであると主張しているが、前認定の事実によれば、原告会社の取締役であるF子は、被告E及び被告会社の加害行為の当時、右行為を認識していたことは明らかであり、また、右行為による原告会社の損害を認識していたことも明らかであって、原告会社の右主張を採用する余地はないものといわざるをえない。したがって、原告会社が、本訴で主張している被告らの不法行為に基づく損害賠償請求権については、いずれも消滅時効が完成している。

2  次に、原告は、被告らの消滅時効の援用は権利濫用であると主張するので、この点について判断する。

原告の主張は、要するに、被告Eの暴力及び脅迫により、原告会社の取締役であるF子は、原告会社のために訴訟を提起して権利を主張することができなかったものであること、また、被告Eの侵奪行為は、悪質であるうえ、被告Eは、別件訴訟と本件訴訟とで全く相反する主張をするなどの悪質な態度をとってきたことを理由に、被告E及びその共同不法行為者である被告会社が消滅時効の援用をすることは、時効制度本来の目的から逸脱し権利濫用に当たるというものである。前認定の事実によれば、確かに、被告EがF子に対し暴力を振るった事実は認められるが、他方、F子は、被告Eに対し、離婚訴訟、婚始費用分担の審判の申立、同審判に基づく差押え、被告会社に対する取立訴訟等を次々と提起しているのであって、これらの事実によると、原告会社が被告E及び被告会社に対して不法行為を理由とする損害賠償請求訴訟を提起しなかったのは、被告Eの暴行及び脅迫によりF子が脅えたためであるとは認めがたく、かえって、原告会社の本件損害賠償請求権の行使も、消滅時効の完成前、十分可能であったものと推認される。また、原告会社が主張するように、被告Eの行為が悪質であるうえ、被告Eが悪質な態度をとってきたものであるとしても、それによって、原告会社の右権利の行使が妨げられたものとも認められないから、被告らの消滅時効の援用が、時効制度本来の目的から逸脱しているともいえない。したがって、原告の右主張は、採用するに由ないものというべきである。

3  以上によれば、原告の被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

三  原告の被告会社に対する不正競争防止法に基づく損害賠償請求について

原告会社は、被告会社の原告会社に類似する商号の使用は、株式会社I・Iに商号変更した昭和五七年一〇月一〇日まで継続していたと主張している。そして、原告会社は、本訴において、昭和四八年から昭和五二年分までの被告会社の利益を原告会社の損害額として主張しているから、本訴で請求しているのは、被告会社の昭和四八年から昭和五二年までの不正競争行為に基づく損害賠償請求権であると解される。ところで、前認定の事実によれば、原告会社が、その当時、被告会社の不正競争行為及び損害の発生を知っていたことは明らかであるから、遅くとも昭和五五年の経過とともに、本訴で請求している右損害賠償請求権については、消滅時効が完成しているものというべきである。原告は、時効の起算点及び時効援用の権利濫用について主張するが、この点に関する判断は、不法行為に基づく損害賠償請求権についてした前認定判断のとおりであるから、原告の右主張は、採用することができない。

したがって、原告の被告会社に対する不正競争防止法に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

四  原告の被告Eに対する有限会社法違反(取締役の競業避止義務違反)に基づく損害賠償請求について

1  前認定の事実によれば、被告Eは、昭和四五年六月九日以降、翻訳業を営む原告会社の取締役であるところ、他方、昭和四八年三月以降同年五月までは個人として原告会社と同種の営業である翻訳業を営み、同年六月一一日以降昭和五〇年九月一〇日までは原告会社と同様の翻訳業を主たる営業内容とする被告会社の代表取締役に就任し、同日代表取締役及び取締役辞任後も、被告会社を退社する昭和五二年一二月三〇日までは被告会社の従業員として営業を担当していたというのである。そうすると、被告Eのその間の右の自己又は第三者のためにした翻訳業に関する取引行為は、原告会社の取締役でありながら、自己又は第三者のために原告会社の営業の部類に属する取引をしたものというべきところ、右取引について認許を受けたとの主張立証はないから、有限会社二九条所定の取締役の競業避止義務に違反するものといわなければならない。

2  この点に関して、被告Eは、原告会社の実体は被告Eの個人企業であって、有限会社法二九条の適用の前提を欠く旨主張している。

しかしながら、前認定の事実によれば、原告会社の設立手続は、F子が行い、有限会社として設立の登記がされており、F子と被告Eが出資口数二五口ずつの社員であり、かつ、代表権のある取締役であって、共同代表の定めがなされていること、設立当時の事務所、備品はF子が提供していること、顧客の開拓にもF子が大きく貢献していること、会社の業務に関しても二人で協力して遂行していること、原告会社の銀行口座についても二人を代表者として届け出ており、引出しには二人の署名が必要とされていたことが認められ、また、《証拠省略》によれば、被告E自身、別件訴訟において、「我々は二人で会社を運営していましたから、彼女としてもお客さんから支払われたお金の一部を自分のものにする権利はあったと思います。」と供述しており(問三四六に対する答)、F子と共同して原告会社を経営していたと認識していたことが認められるところであって、これらの事実を総合すると、原告会社の実体が被告Eの個人企業であると認めることはできず、かえって、原告会社は、小規模な会社であっても、有限会社として設立され、被告EとF子の共同事業としての性格を有するものである以上、原告会社に有限会社法二九条の規定が適用されるのは当然であるというべきであるから、被告Eの右主張は、採用することができない。

3  次に、被告Eは、原告会社の事務所の移転、備品の持出し等の同被告の行為について、原告会社の全社員の同意を得ている旨主張し、その本人尋問の結果中、これに沿う供述をし、《証拠省略》中にも、同趣旨の供述が記載されている。しかし、被告Eの右供述は、《証拠省略》に照らし、にわかに信用することができず、他に被告Eの右主張事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、被告Eの右主張は、採用の限りではない。

4  なお、被告Eは、原告会社は、昭和四七年一二月以降、F子が取締役としての職責を放棄したため、経営は不可能となり、全く形骸と化した旨主張し、被告Eの競業避止義務違反の行為により原告会社に損害が生じたことを否定しているので、この点について判断する。

前認定の事実によれば、(1)原告会社は、昭和四七年当時、被告EとF子が共同して経営しており、順調に業績を伸ばしていたが、両者の夫婦関係が悪化し、F子は、昭和四七年九月、離婚訴訟を提起するに至った。(2)その後、被告Eは、同年一一月、F子に無断で、事務所を移転し、新たに銀行口座を開設して、顧客からの代金をそちらに振り込ませ、原告会社のすべての収入を自己の管理下に置こうとしたため、F子は、一種の自衛措置として、得意先に赴き、直接売掛金を回収したり、被告Eが開設した富士銀行の口座の払戻停止措置をとったりした、(3)被告Eは、このようなF子の行動に対し、昭和四八年二月限りで原告会社の営業を停止し、同年三月からは、被告E個人の事業として、同年六月からは、被告会社の事業として、原告会社の顧客、備品等をそのまま引き継いで翻訳事業を行っていた、というのである。以上の事実によれば、被告Eは、共同代表権のあるF子を原告会社の営業及び利益の分配から排除するため、原告会社としての営業を停止し、被告E個人あるいは被告会社として営業を行うようにしたものであり、その結果、原告会社の営業は、事実上不可能となったものと認められる。このように、原告会社の営業が不可能となったのは、被告Eの競業避止義務違反の行為によるものと認められるのであるから、競業避止義務違反の行為によって原告会社には損害が生じているものというべきである。したがって、被告Eの右主張は、採用することができない。

5  そこで、被告Eの右競業避止義務違反の行為による原告会社の損害について判断する。

取締役が有限会社法二九条一項所定の競業避止義務に違反して取引をした場合に会社の被った損害については、有限会社法三〇条の二第四項が商法二六六条四項の規定を準用しているので、右準用規定により、取締役又は第三者が得た利益の額が会社の損害額と推定されることになる。なお、有限会社法三〇条の二第四項は、昭和五六年の改正により新設されたものであるが、改正附則二条により、改正後の有限会社法の規定は、特別の定めがある場合を除いては、改正前に生じた事項にも適用するものとされているところ、右特別の定めはないから、本件の競業避止義務違反の行為についても適用がある。ところで、本訴において、原告会社は、競業避止義務違反に基づく損害についても、不法行為に基づく損害と同様に、原告会社の被った損害の額は昭和四八年から昭和五二年までの被告会社の上げた利益の額であると主張しており、これは、有限会社法三〇条の二第四項に基づき、被告Eが原告会社の営業の部類に属する取引をした結果、第三者である被告会社の得た利益の額を原告会社の損害の額として主張しているものと解される。

ところで、前認定の事実によれば、被告会社は、原告会社と同様の翻訳業を営業内容とするものであるところ、被告Eは、昭和四八年六月一一日の被告会社の設立時から昭和五〇年九月一〇日の辞任までの間、被告会社の代表取締役として、被告会社のために原告会社の営業の部類に属する取引をしていたものと認められ、したがって、その間の被告会社の得た営業利益の額は、被告Eの競業避止義務違反の行為によって原告会社が被った損害額と推定される。

なお、原告会社は、被告Eは、昭和五〇年九月の代表取締役辞任後も、従業員の形で実質上の権限をふるっていたと主張し、《証拠省略》中にはこれに沿う供述部分があり、また、《証拠省略》にもこれに沿う記載が存在するが、これらは、前一の認定に供した各証拠に照らしてにわかに信用することができず、かえって、前認定の事実によれば、被告会社の黒字倒産を避けるためには代表取締役の交代が必要であったこと、被告Eに代わって代表取締役になった訴外清原が会社のために連帯保証をしていること、交代の挨拶状を取引先に通知していること、交代後は訴外川井が訴外清原の下で会社の内部を統括し、被告Eは営業担当の従業員となったことなどが認められるところであって、被告Eが、代表取締役辞任後も、実質的に代表取締役として活動していたものとは到底認めることはできず、単に営業担当の一従業員として活動していたにすぎないものと認められる。してみると、被告Eは、被告会社の代表取締役辞任後は、従業員として被告会社の営業を担当していたにすぎないものであるから、右辞任後は、被告会社の営業利益のすべてが被告Eの競業避止義務違反の行為によって得られたものと認めることはできない。なお、被告Eの行為が、被告会社の営業を担当する従業員としての行為であったとしても、それが有限会社法二九条所定の競業避止義務に違反するものである以上、被告Eは、それによって原告会社が被った損害を賠償すべき義務を免れないが、右従業員としての行為によって被告会社が得た利益は、代表取締役としての行為による場合とは異なり、従業員としてした個々の競業避止義務違反の取引によって被告会社が得た利益を指すものと解さざるをえず、したがって個々具体的に算定する必要があるが、本件においては、被告Eの従業員としての取引によって被告会社が得た利益について、個々具体的に算定するに足りる資料はなく、結局、その額の主張立証がないというほかはない。

そこで、以上の事実を前提として、被告会社の得た利益の額について判断するに、右利益の額は、前認定のとおり、被告会社の昭和四八年度(設立から同年末まで)の売上高は一七一三万一〇一〇円、営業利益は一二万九二〇円、昭和四九年度の売上高は四四六九万三三八〇円、営業利益は二四万六六五五円、昭和五〇年度の売上高は七八一九万一七〇二円、営業利益は一〇四万一九一九円である。この点に関して、原告は、被告会社の利益率は売上高の六八パーセントであると主張しているが、右主張事実を認めるに足りる証拠は存在せず、かえって、《証拠省略》によれば、税理士である澤田守之輔は、昭和四八年七月ころから被告会社の顧問税理士として被告会社の会計記帳、経理処理を指導してきており、同人の被告会社の決算書は信頼することができる会計記録に基づいて作成されており、事実を表示しているものと認められるところ、前認定の被告会社の売上高及び営業利益は、被告会社の決算報告書に基づくものであることが認められるから、原告の右主張は、採用することができない。

そうすると、被告Eが代表取締役に就任していた間の被告会社の得た利益の額は、前示のとおり、昭和四八年分が一二万九二〇円、昭和四九年分が二四万六六五五円である。また、昭和五〇年分については、代表取締役を九月一〇日に辞任しているので、在職していた期間は八カ月と三分の一か月であるから、その間の被告会社の営業利益は、前示の年間の営業利益一〇四万一九一九円を按分した七二万三五五五円である(1041919÷12×(8+1/3)=723555)。

以上の合計は一〇九万一一三〇円である。

したがって、原告会社は、被告Eの競業避止義務違反により右同額の損害を被ったものというべきである。

6  弁護士費用について

被告Eが任意に支払いをしないため、原告会社において原告訴訟代理人弁護士に本件訴訟の提起、追行を依頼したことは、本件記録上明らかであるところ、本件事案の性質、事件の経過、認容額等を考慮すると、原告会社が被告Eに対して弁護士費用の損害として請求できる金額は、二〇万円と認めるのが相当である。

7  したがって、被告Eは、原告会社に対し、競業避止義務違反による損害賠償として、一二九万一一三〇円を支払うべき義務があり、右債務は、債務不履行に基づく損害賠償債務であるから、内金一〇九万一一三〇円については本訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和五七年七月三日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、また、内金二〇万円(弁護士費用分)については、原告会社は、弁護士費用の支払時期を事件終了時と主張しているところであるから、本判決確定の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

五  以上によれば、原告の本訴請求は、被告Eに対し、一二九万一一三〇円及び内金一〇九万一一三〇円に対する昭和五七年六月三日から、内金二〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、被告Eに対するその余の請求及び被告会社に対する請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条及び九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官房村精一及び小林正は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 清永利亮)

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